神戸地方裁判所姫路支部 昭和42年(わ)382号・昭42年(わ)365号・昭42年(わ)488号・昭42年(わ)396号・昭42年(わ)495号・昭42年(わ)629号 判決
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〔判決理由〕(被告人山田に対する一部無罪の理由)
(一)、被告人山田に対する本件公訴事実は、「被告人は、昭和四二年一一月二三日午後一〇時五五分頃国鉄姫路駅待合室において、鉄道公安職員中石庸二、同福井隆夫より塩谷某に対する暴行被疑者として事情を聴取するため公安室に同行を求められるや「公安が何どい、なんで公安室へ行かんならんのや」等と暴言を吐き、いきなり右福井の右足を下駄履の足で蹴り、更にこれを制止しようとした右中石の頭部を手挙で殴打し、以つて同人の職務の執行を妨害したものである。」(公務執行妨害罪・刑法第九五条)というのである。
(二) しかし、当裁判所は、鉄道公安職員の前記行為は被告人が同行を拒否しているのに強制力を行使して連行しようとした違法行為であつて適法な職務執行とは認められないから、これに対して暴行を加えても公務執行妨害罪の成立する余地がないものと判断する。すなわち、
証拠を総合すると、昭和四二年一一月二三日午後一〇時五〇分頃、大阪鉄道管理局姫路鉄道公安室所属の司法警察員に相当する職務を行う鉄道公安班長中石庸二、同福井隆雄、鉄道公安員堂道武次は、国鉄姫路駅旅客掛より同駅待合室で人が喧嘩をしている旨の電話連絡を受けて同待合室に急行した。しかし既に喧嘩は終つていてその状況を確認できなかつたため右待合室にある鉄道弘済会姫路営業所売店の販売員藤尾武に状況を尋ね、同人から前記喧嘩の当事者の一人は被告人である旨聴取したので、右鉄道公安職員らは当時同待合所南側位置にいた被告人に近づき、まず中石鉄道公安班長が、その場で職務質問をするのは他客に迷惑を及ぼすと認めたうえ、被告人に対し前記公安室まで職務質問のために任意同行するよう促したが、被告人は酔余「おどれ公安が何どい。なんで公安室へ行かんなんのどい」等と反抗的発言、態度で応酬して同行を拒絶した。しかるに同班長らは(その場合刑事訴訟法に基く権限を行使する意図はなく、任意同行の方法によりながら)性急に同行を要求して被告人の抗議を聞きいれず、同行を拒絶している被告人の前後横に位置しながら、「文句をいわずに一寸来てくれ」と云うなり、中石鉄道公安班長が被告人の後肩を押え、或は福井鉄道公安班長らが両腕を掴んだまま、同地点から約一〇メートル離れた同駅中央コンコース入口附近まで無理に連行した。そこで被告人は、襟首を放してくれと叫びながら右鉄道公安職員らの手を振り放さんとして、公訴事実記載の如き暴行を加えたところ、即時同所で公務執行妨害罪現行犯で逮捕された。以上の事実が認められる。証人中石庸二、同福井隆雄の各証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らすに多分に誇張、矛盾を含み措信できない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 右認定の事実によれば、中石鉄道公安班長らが既に指摘したような事情から合理的に判断して、被告人を既に行われた喧嘩という暴行事件の加害者であると認めて当初いわゆる職務質問のため同行を求めたことは、鉄道公安職員の職務にも当然準用される警察官職務執行法第二条第一項第二項に基く適法な職務行為であるにしても、同条第二項の「同行することを求めることができる。」というのは、職務執行の目的を日本国憲法並びに警察法の精神に合致させ、職務行為の限度を示しその濫用を戒めた警察官職務執行法の趣旨に照らすと、単に任意の同行を要求することができるという意味であつて、同条第三項に徴しても強制力による同行を認める趣旨でないことは言うまでもないところ、前記認定のように、右鉄道公安職員らは、被告人が言葉や態度をもつて同行を拒絶する意思を表明しているにもかゝわらず、被告人を穏便に説得し、納得させたうえ同行を承諾させるという手段にも出ず、性急に同行を求めて、最後には実力を行使する挙に出たのであつて、かような方法は如何なる意味においても到底任意の同行とは解されず、これはまさに説得の限界を越え、同行に名を籍りた強制力によるいわれなき連行と言うべきであつて、同条項に基く鉄道公安職員の職務行為としては著しくその正当な範囲を逸脱しており、違法な職務行為と言わなければならない。してみれば、被告人において右実力行使を排除すべく、前認定のような暴行を加えても畢意するに違法な職務行為に対する反撃であつて公務執行妨害罪の成立する余地はない。(村上喜夫 鈴木清子 藤田清臣)